Pavel Yosifovich, Alex Ionescu, Mark E. Russinovich, and David A. Solomon 著
山内和朗 訳
価格 : 8,424円(税込み)
ISBN : 978-4-82225-357-8
発行元 : 日経BP社
発行日 : 2018/05/01(2018/04/27 発売開始)
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(4/22 の「技術書典4」でいち早く買えるらしい)
技術書の(丸ごと)翻訳はこれが 3 冊目ですが、私は英語が得意ではありません。開発系の話が多く登場しますが、開発者でもありません。ロゼッタストーン(同じ内容が3種類の言語で書かれた古い石版、ヒエログリフ解読のきっかけになった)的なものがあると助かるのですが、開発系の公式ドキュメントは日本語化(機械翻訳は論外として)されているものが少なく、結構な苦労を強いられました。製品の UI に出てくるものについては、マイクロソフト ランゲージ ポータル(https://www.microsoft.com/ja-jp/language)が活躍してくれるのですが、文章となると難しい。
それはまるで、『解体新書』で前野良沢が苦労しているがごとく(NHK の正月時代劇“風雲児たち~蘭学革命篇~”で知りました)、独自に日本語訳を作り出したことも。
例えば...(以降は本書を読む上での注意事項です)
Windows Vistaで導入された「Protected Process」というプロセスの保護機能があります。日本語では「保護されたプロセス」がローカライズ時の正式名称です。Windows のイベント ログの中にも”LSASS.exe がレベル XXX で保護されたプロセスとして起動されました。(LSASS.exe was started as a protected process with level: XXX)”のように出てきます。
Protected Process はもともと、デジタル著作権管理(Digital Rights Management:DRM)の保護を提供するために実装されたものですが、Windows 8.1 からはより汎用的な用途で利用できる保護機能として“Protected Processのライト版(簡易版、DRM に要求されるような厳格性に対して簡易)”を意味する「Protected Process Light(PPL)」が実装されました。ランゲージポータルでは「Protected Process Light」という文字では結果がヒットしません(「Protected Process」の検索結果にはこの後出てくる名称が出てきます)。
Windows を実行中なら、コマンドプロンプトを開いて、次の2つのコマンドラインを実行してみてください。証明書のEKU(拡張キー使用法)のOID(オブジェクトID)の表示名を表示してくれます(このコマンドを覚えておくと、そのEKUを持つ証明書を探す手間が省けて便利です)。この2つのOIDは、プロセスの保護に関係するものです。
certutil -oid 1.3.6.1.4.1.311.10.3.24
certutil -oid 1.3.6.1.4.1.311.10.3.22
1つ目のコマンドはEKUの名称として「保護されたプロセスの検証」、2つ目のコマンドは「保護されたプロセスの簡単な検証」と出るでしょう。英語環境なら「Protected Process Verification」と「Protected Process Light Verification」です。「PPLの検証」であるはずの後者が、「Protected Processの簡単な検証」のように不適切に訳されてしまっています。ランゲージポータルによると、Windowsおよびマイクロソフト製品の中で、PPLについての日本語訳はこれが唯一のもののようです。
そこで本書では、既にある正式名称の「保護されたプロセス」を生かしながら、PPL との対応も分かるように、PPLのことを「ライトな保護されたプロセス(Protected Process Light:PPL)」と独自に訳し、その上で脚注で注記しています。もちろん、「ライト(Light)」の意味合いを含む PPL の機能については、本文で詳しく説明されています。「保護されたプロセスv2」とかでもいいのですが、それだとPPLと結びつきませんし。
このように、本書独自の訳もあることに注意してください。つまり、「ライトな保護されたプロセス」は製品用語としての正式な日本語訳がない(誤っている)ため、本書の中だけの便宜上付けた名称にすぎないということです。そのため、他では使用するべきではないし、第三者にはまったく通じないはずです(その際は Protected Process Light または PPL のほうで会話してください)。
また、オリジナルの用語は、初出時に可能な限り括弧付き残していますし、さまざまな略称(例:VBS、HVCI)は、探さなくてもよいように、節(1.1.1、1.1.2)ごとの初出時に元々の用語を記しています(例:仮想化ベースのセキュリティ(Virtualization-Based Security:VBS)、ハイパーバイザーのコードの整合性(Hypervisor Code Integrity:HVCI))。短い節が続くと、しつこく見えるかもしれませんが、ご了承ください。
さて、本書は日本における Windows 界のロゼッタストーンになれるでしょうか。それは無理かもしれませんが、あとは読者のご判断にお任せします。言葉が足りなかったようでしたが、ロゼッタストーンはヒエログリフを解読する鍵になっただけでしたよね。(っと、使用上の注意のつもりで書いたことが伝わらなかった方がいるようなので、ハードルをしっかりと下げておきます。投稿のタイトルが誤解を与えたかもしれません。ただのオヤジギャグでした、申し訳ありません。ロゼッタストーンのたとえは、受け取り方は人それぞれぞれのようですね、勉強不足でした)。
・・・
「Structure」 を「構造"体"」と最初に訳した人、呪ってやる。(冗談です)
「Address Space」の「Space」は「空間」なの「領域」なの、はっきりして。(冗談です。正式名称(ランゲージポータル)を尊重して、なんとか使い分けました)
「ライトな保護されたプロセス」の訳に厳しい意見をコメントでいただきました。おっしゃるとおり、無理やりあてた訳です。いろいろ他にも理由があって、苦渋の決断の末、こういう訳になりました。「ライトな」の「な」で、RightやWriteに誤解されることを回避しようと考えました。
返信削除しかしながら、この用語に限らず、オリジナルは可能な限り残しています。この例では、初出時に「ライトな保護されたプロセス(Protected Process Light:PPL)」と表記した上で、脚注に正式な用語でないことを注意として示しています。その後、節単位ごとに初出時「ライトな保護されたプロセス(PPL)」、その後は「PPL」のように記載しています。例えば、「プロセス(Process)」のような単純な用語も初出時にはオリジナルを併記するようにしています。
なにとぞご了承ください。